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2018年12月17日

何十年も修行しないと『職人』を名乗れない?

最近、ある若い靴職人さんが話題になっています。
有名なご夫婦の息子さんで、イタリアのフィレンツェで靴を勉強してきたとのこと。後半は少し私も共通します。
彼の通っていた専門学校は僕も知っている学校です。

テレビをつけると連日話題になっていて、色々と批判を浴びているようですね。
私は事実関係を知るわけでもないし、彼とお会いしたことがあるわけでもないので、話題について特に意見はありません。かばう気持ちも、攻撃するつもりも。
20万円という靴の値段はオーダーなら何とも思いませんが、注文した靴が届かないというのが事実なら、それは駄目ですね。というくらい。有名人の息子さんだと、注目を浴びて大変です。

そんな内容が報道される中で、気になることがあります。
それは、彼が「若すぎる」とか、「修行の時間が短すぎる」という批判です。
あるコメンテーターの方は、「3年で靴職人だなんてとんでもない、修業中ですと言うべき」と発言されていました。
皆さんはどう思われますか?

何十年も修行しないと『職人』を名乗れない?
ジュエリー作りを勉強しはじめて、2年目に作った指輪。
鍛造・ミル打ち・石留め・彫刻も手作業です。なつかしい。
K18WG&ブルーサファイア



難しいですが、私はこんな風に思います。
まず、職人という仕事の中に『アート性の高いもの』と『工業的なもの』があり、業種によってその配分が違うため話がややこしくなっています。
今回の靴職人は工業的に量産する職人というよりは、アート性の高いものです。

あのサルバトーレ・フェラガモが初めて靴を作ったのは9歳のとき。自宅で開業したのは11歳のときです。その後アメリカに渡り、帰国後フィレンツェでブランドをオープンしたのが29歳の年。
日本人靴職人といえばこの人と言える、フィレンツェの『il micio(イルミーチョ)』代表、深谷秀隆氏。実は向こうにいる時、工房を見せてもらったり、宝石職人を紹介していただいたりとお世話になったのですが、彼がイタリアに渡ったのが23歳の時。それから2年で自らのブランドを立ち上げ、30歳前にフィレンツェのチェントロ(世界遺産である中心部の歴史地区)に自らのお店をオープンしています。しかも、靴の値段は当時で1足40万円以上。
有名なルイ・ヴィトン氏が旅行かばん店を開業したのは33歳のときです。
みんな凄まじく貪欲に修行をしたこと、そして天賦の技術的才能と商才があったのは間違いありませんが、他にも若くして独立開業した職人はいくらでもいます。
芸術のウェイトをもっと高めれば、Youtubeには大人が何年練習してもできっこない演奏をするキッズの動画がたくさん見つかります。

これまでも、どうも日本人は『職人は長年の下積みを経てはじめて一人前』という固定観念が振り払えないのではと思ってきました。
寿司職人さんには『飯炊き三年握り八年』という言葉がありますが、丁稚奉公からはじまり、何年も親方の背中を見て、何年か道具作りをして、仕事をさせてもらえるのは○年後。そこからが職人の修行のはじまり…というものに、何とも言えない美徳や安心を感じるようです。

でも、これじゃあ職人になる人居なくなっちゃいますよね。

うちのアトリエにも優秀なジュエリー職人達がいます。
前述のコメンテーターさんの意見には一理あります。そう思う部分もありますが、私はこれまでも、素晴らしいものを作るのに年齢は関係ない。修行期間は長ければいいというものではない。と思ってきました。今の職人にはもっと合理的な考え方が必要で、重要なのは『どう学ぶか』ということです。
漫然と日々の仕事を10年こなした人より、短い時間で、どうやって良いものが作れるようになるか、どうやって食っていけるようになるか戦略を真剣に立て、3年間みっちり取り組んだ人のほうが優秀だろうと思います。才能もありますが。
一方で、長年反復する中で身につく感覚や習慣性のもの、それに偶発的な事象に対応する能力というものもあります。これは決定的に長年の積み重ね以外に習得する方法がなく、『職人長年修行すべき説』の柱となる部分です。でも、よく考えると、これらは技術の『核』となるものではありません。
それに、誤差コンマ何ミリで同じものを作る作業は、どんどん機械にとってかわられます。

当然、物事を習得するのにある程度の期間の修行は必要です。その中で、普通なら10年かかる学びを5年で身につける。3年かかるものを1年で習得する。合理的に思考して自らのレベルを上げ、人の倍の速度で成長すれば、それだけ人を幸せにできます。きっと普通にしているより豊かにもなれます。優秀な職人は教えられずとも、そういう考えのもと修行しているでしょう。
何年も修行しないと食えないなんて、そうは思いません。先輩の背中から学ぶことも多いけれど、図書館で学べること、WEBから得られる学びもあります。YouTubeの無料の動画にも参考になるものが転がっている時代です。職人自らが、学び方を変えられる時代が来ているのです。

何十年も修行しないと『職人』を名乗れない?

若い職人がいたっていいじゃないですか。修行が短くたって、本当に評価してくれる人がいるなら問題じゃありません。
もちろん淘汰されていく者もあるでしょうけど、才能とお金があれば、どんどん開業すればいい。
テレビでかっこよく脚色されて、持ち上げられてしまうのも、それで「本業をおろそかに…」と叩かれるのも、自分の能力のひとつであり、使い方を間違えば自分に返ってくるだけのことです。
それに、職人には『修行中』も何もありません。職人であり続ける限り、修行は終わることなく続くのですから。

私はジュエリーの世界にいますが、靴も大好きです。
騒動を横目に見ながら、どちらも職人というものが評価され、スポットが当たることは良いことだと思います。職人というものに対する『こうあるべき』というあり方を、周囲も、職人自らも変えることができる。そういう積み重ねで日本のジュエリーも、ものづくりそのものの環境もより良くなっていくのかなと、大きなことを考えたりします。
話題の人の内情は別として。


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プロフィール
まーちん
まーちん
静岡県浜松市出身。
大手企業で法人営業を経験後、ジュエリーをはじめとした高級品の外商部門へ配属。宝石や営業への苦手意識や怪しそうな先入観があり、克服したい思いと逃げ出したい思いから配属初年で全国トップセールスとなる。
数年後、部門の買収を機にIT関連企業から声をかけていただき転職、ジュエリーWEBショップサイトを運営する。
オリジナルジュエリーを企画・販売する中で、いつしかジュエリーを好きになっている自分に気づくと同時に、あまりにもそれを知らないことに気付く。宝飾業界の販売のあり方にも疑問が募り、販売技術だけでなく「ジュエリーそのものを1から学びたい」との思いが芽生えたため、退職してイタリア・フィレンツェのジュエリースクールに単身留学。
多くの熟練マエストロ達からイタリア式ジュエリー制作、フレンツェ流透かし、デザイン、彫刻などを学ぶ。

帰国後、ヨーロッパスタイルの「工房&ショップ」でオーダーメイド・ブライダルジュエリーを制作するアトリエフィロンドールへ仲間入り。様々なジュエリーの現場経験と製作経験を生かして、理想のジュエリーづくりのお手伝いをする。
・GIA(米国宝石学会)ダイアモンド修了士。
・ブライダルジュエリーブランド「MIORING」、「HISTOIRE de Filondor」ディレクター
・1級ジュエリーリモデルカウンセラー(JRC)

アトリエ・フィロンドール
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