『勇気』の指輪 ― ジュエラーのできること

まーちん

2016年09月04日 00:39

先日、私共アトリエ・フィロンドールに一人の男性がお越しくださいました。
とても気さくで、姿勢がよく、声に張りのある男性です。

使い込まれた結婚指輪を差し出し、愛想良く、少し申し訳無さそうにおっしゃいました。
「他店で買ったもので申し訳ないのですが、この指輪の内側に文字を刻印してほしいのです。」




もちろん、私共はどこでお求めになった指輪でも、素材やデザインに無理がなければ刻印をお入れしております。
「どのようにお入れいたしますか?」とお伺いしたところ、ご希望の文字は次のようなものでした。

“COURAGE”(勇気)

そのお客様のおっしゃるには、通常では手の施しようのない進行度の病が見つかり、
これから、わずかな可能性に望みをかけて実験的な治療にチャレンジするとのことです。

「自分に負けないように、これから立ち向かうものに臆することのないように、
『勇気』という文字を指輪に刻んで向かいたい」

とおっしゃいました。

「また、もし万が一、万が一のことがあった場合も、私の勇気を刻んだ指輪が残る。
子供がそれを見てくれると思う。」


とても衝撃的なことを、あまりにも普通に、屈託なくおっしゃる姿に衝撃を受け、
同時に、葛藤や壁を既に乗り越えてこられた方の覚悟や強さを感じました。


私達ジュエラーは、医師や警察官、消防士さんのように、人を物理的に助けることはできません。
過去には「キラキラしたものを販売するだけの仕事」だと悩んだこともあります。
ですが、いつも身につけるジュエリーとして寄り添うことで、人の心を少しだけ手助け
することができるのかもしれない。そんなことを確信した出来事でした。

私達が刻みこんだ「勇気」が心の炎となって、どんな戦いにも立ち向かうことができる。
医学や生理学の限界を超えた何かを、指輪が間違いなくもたらしてくれるでしょう。

澄み切った、強く輝く気持ちで戦えるように指輪を念入りに磨き上げ、
内側にはご希望どおり、『COURAGE』を刻印させていただきました。
お客様の薬指にいつでも触れる「勇気」が、きっと力になってくれると願って。


刻印の内容はお客様だけのものであるべきだと思い、撮影しませんでした。


数年後に、
「指輪が少しくすんできたから、ピカピカにしてくれませんか?」
そんなふうにふらりと、あのお客様にまたお目にかかれる日がくると信じております。

皆さんの指輪の内側には、どんな文字が刻まれていますか?

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